ときどき文化

 美術、音楽、ワークショップの感想など

DJの知られざる能力

久しぶりにワークショップに参加してきました。

大阪で毎夏開かれているワークショップフェスティバルDoors(ドアーズ)のひとつ、『映画レビュー入門』なるもの。

私自身はたいして映画を見ない(気になっても見逃していることが多い)のですが、レビューを書くという切り口は面白そうです。

www.iwf.jp

講師は、毎週ラジオで映画評を行っているというFM802のDJ、野村雅夫さん。
映画評はご自分で書いているそうです。

さすがラジオのDJ。見るからにあかぬけていて、知識も情報も豊富、頭の回転が速そう。
そしてお話も上手(プロだから当然ですが)。

一般人のなかでものんびりテンポと言われることの多い自分としては、ポカンと仰ぎ見てしまいます。

ワークショップは90分。
その流れは‥

・講師よりレクチャー「レビューとは?」
  ↓
・短編映画を鑑賞。気になった点、疑問などを皆で出し合う
  ↓
・別の短編映画を鑑賞し、(一本目の映画で得た視点を参考に)レビューを書く
  ↓
・全体共有


なかなかな強行軍ですが、ぎゅっと凝縮されています。


レビューとは?

講師の野村さん曰く、「レビューには “書き手” が出てこない」。

映画を記憶し、脳内で再現し、シーンを言葉で描写する。その延長線上に、レビュー(評論)があるのだそうです。

「なぜこれが映っているのか」「なぜこんなセリフを言っているのか、こんな表情なのか」「なぜこのキャスティングなのか」 …等々について、徹底的に調べ、裏付けをとる。主観を挟まず、事実によってのみ積み上げていくもののようです。

ただ今回のワークショップでは、調べたりする時間はないので、そこまで至らなくてもよい、とのこと。

短編映画(4分)を鑑賞‥ 視点や疑問を出し合う

このとき見せていただいたのは、2002年のイギリス映画「チラリ」(原題:White Bits)

わずか4分の映画なのに、ハラハラするシーンもあり、気の利いたオチや余韻もあり。

参加者と講師から、登場人物の関係性、小道具、シーンの切り替え、クレジットの出し方、色づかい、等の視点が出ました。
それぞれの視点に注目すると、作り手の意図が見えてきます。


別の短編映画(18分)を鑑賞‥ レビューを書く

2本目は、2001年のアイルランド映画「Day One」。一人の女性の初出勤の、ドタバタな一日を描いた映画です。

参加者全員が同じ条件のもとで書けるよう、参加者の誰も見たことのないであろう映画を選びました、とのこと。


レビューを書く時間は20分。あとでレビューを書くことを考え、メモを取りながら観ていましたが、どうしても感情移入してしまい、いつもの(レビュー前提ではない)鑑賞スタイルになってしまいます。「あれ? これって、ただの感想かな‥」と思っているうちに、時間切れに。

書いたレビューは回収され、時間の許す範囲で全体共有されましたが、中にはこんな短い時間でよくぞここまで、と驚くほど的確にストーリーやシーンを描写、分析されている方も居て、「こういうものをスラスラ書ける人も居るんだなぁ・・」と、適性の差をしみじみ感じました。

ある程度は訓練や慣れで向上するものかもしれませんが、もって生まれた能力というか、志向の違いがあるのでしょう。
私自身は、とくに芸術的な表現物に対しては感情が先行するタイプで、客観的なレビュー向きではないことを再認識しました。


そして、一見ファンキーなDJさんが、ものすごい観察眼や言葉による描写力、論理的思考力をおもちだということも。
わずか数秒のシーンに映っていた小道具、場面設定など、事実のみから作り手の意図を解き明かされて、アレはコレの布石だったのか、そんな深い意図があったのか、と感心。講師の野村さん、学生時代は映画を専攻していたのだそうです。

野村さんは、毎週木曜日の番組で映画評を放送(※)されています。※2019年7月時点ワークショップが開かれたのは火曜日。「あさって(木曜)の放送でも映画をご紹介するんですけどねー、まだ何っにも調べてないんです」と、カカカと笑っておられました。

しかしこの方のスキルをもってすれば、あっという間に見事なレビューを仕上げられるのでしょう。敗北感を感じます。
(最初から勝負になってない‥ )